ビジネスメールや会話でよく見聞きする「○○させていただく」という表現。
丁寧で無難な言い回しとして使われがちですが、「使いすぎ」「違和感がある」「逆に失礼では?」と感じたことはないでしょうか。
実はこの表現、正しく使えば便利な敬語である一方、条件を満たさない使い方をすると「敬語の乱用」「不自然な日本語」と受け取られてしまうことがあります。
この記事では、「○○させていただく」の本来の意味から、乱用がNGとされる理由、正しい使用場面、言い換え表現までを丁寧に解説します。
敬語に自信がない方でも、今日から安心して使えるようになる内容です。
「○○させていただく」の本来の意味とは
「○○させていただく」は、「させてもらう」を丁寧にした謙譲表現です。
単なる丁寧語ではなく、話し手がへりくだることで、相手への配慮や敬意を示す役割を持っています。
文法的には、
「(相手の許可・恩恵によって)○○を行う」
という意味合いが含まれています。
たとえば、
「本日は私から説明させていただきます」
という表現には、
「説明することを相手が認めてくれている」
「その機会を与えてもらっている」
という前提が含まれています。
つまり、「○○させていただく」は、
・自分の行為
・相手との関係性
・許可や配慮
この3点がそろって、はじめて自然に成立する表現なのです。
なぜ「○○させていただく」の乱用が問題になるのか
「○○させていただく」が問題視される最大の理由は、本来必要のない場面でも多用されている点にあります。
特に、
・相手の許可が関係ない行為
・単なる事実報告
・自分の意思だけで行う行動
にまで使われると、違和感が生じます。
たとえば、
「本日退社させていただきます」
「コピーを取らせていただきます」
「席を外させていただきます」
などは、状況によっては過剰表現と受け取られがちです。
聞き手からすると、
「そこまでへりくだる必要がある?」
「回りくどくて分かりにくい」
と感じられることもあります。
結果として、丁寧にしたつもりが、
・敬語に不慣れ
・自信がなさそう
・言葉を選びすぎている
という印象を与えてしまう場合があるのです。
「○○させていただく」が適切に使える条件
「○○させていただく」が自然に使えるのは、主に次の条件を満たす場合です。
1つ目は、相手の許可や承認が前提となる行為であること。
会議での発言、作業の実施、説明の担当など、相手の了解があって成立する行動が該当します。
2つ目は、相手から恩恵を受けていると考えられる場面であること。
時間をもらう、機会を与えてもらう、協力してもらう場合などが当てはまります。
3つ目は、話し手がへりくだる必要がある関係性であること。
上司・取引先・顧客など、敬意を示すべき相手とのやり取りが典型例です。
これらの条件がそろったとき、「○○させていただく」は非常に効果的な敬語表現になります。
正しい使用場面の具体例
実際に適切とされる使用場面を見てみましょう。
会議の場で、
「それでは、資料について私からご説明させていただきます」
は、説明する役割を任されている状況なので自然です。
取引先とのやり取りで、
「後ほど改めてご連絡させていただきます」
も、相手の時間や都合を考慮した表現として問題ありません。
上司に対して、
「明日までに対応させていただきます」
という言い方も、指示を受けたうえで行動する場合であれば適切です。
このように、「相手の理解・許可・配慮」が背景にある行為であれば、違和感は生じません。
乱用と受け取られやすいNG例
一方で、注意が必要な例もあります。
「本日は定時で退社させていただきます」
これは自分の行動を過度にへりくだって表現しており、不自然に感じられがちです。
「本日は定時で退社します」
で十分な場面も多いでしょう。
「コピーを取らせていただきます」
業務上当然の行為であれば、
「コピーを取ります」
の方が簡潔で自然です。
「こちらに座らせていただきます」
席を勧められていない状況では、過剰な敬語と受け取られることもあります。
このようなケースでは、「丁寧=正しい」とは限らない点に注意が必要です。
「○○させていただく」の言い換え表現
乱用を避けるためには、適切な言い換えを知っておくことが大切です。
たとえば、
「確認させていただきます」
は、
「確認します」
「確認いたします」
と置き換えられます。
「対応させていただきます」
は、
「対応します」
「対応いたします」
でも十分丁寧です。
「説明させていただきます」
も、状況によっては
「ご説明いたします」
とすることで、すっきりした印象になります。
「○○いたします」は謙譲語として非常に使いやすく、「させていただく」ほど条件を選びません。
迷ったときは、「いたします」に置き換えられるかを考えるのがおすすめです。
ビジネスシーンでの上手な使い分けのコツ
「○○させていただく」を上手に使うコツは、「本当に必要か」を一度立ち止まって考えることです。
その行為は、
・相手の許可が必要か
・相手の好意や配慮が前提か
・へりくだることで関係が円滑になるか
を自問してみましょう。
もし答えが「いいえ」であれば、無理に使う必要はありません。
また、文章全体で何度も繰り返さないことも重要です。
1文ごとに「させていただく」が続くと、くどく感じられやすくなります。
敬語は「多ければ良い」のではなく、「適切で分かりやすい」ことが何より大切です。
まとめ
「○○させていただく」は、相手の許可や恩恵を前提とした、正しい場面で使えば非常に便利な敬語表現です。
しかし、条件を考えずに乱用すると、不自然さや違和感を与えてしまいます。
重要なのは、
・相手との関係性
・行為の性質
・言い換えの可能性
を意識することです。
「丁寧に話そう」と思う気持ちは大切ですが、過剰な敬語はかえって逆効果になることもあります。
場面に応じて適切な表現を選び、自然で伝わりやすい日本語を心がけましょう。


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